「僕の母親は前・魔王なんだ。女魔王ってやつね。母親から譲位されたとき、僕がめちゃくちゃ嫌がったから、真面目にやらないんじゃないかって心配だったんだと思う」

「魔王様は魔王になりたくなかったんですか?」

「当たり前でしょー。臣下たちは協調性ゼロなんだよ? 言うこと聞かないで喧嘩ばっかするし、おまけに僕の寝首をかこうとしてくるし」


あっ、そうだった。どう考えたって簡単な仕事ではない。


「その辺はミクルも魔界に住んでるうちに、おいおいわかってくるよ」

「魔界!?」


ここ、魔界なの? 地球の裏側じゃなくて?


私、とんでもないところにいた!


でも魔王様がいるんだから、魔界なのも当然か……


そんなことよりも気になることがある!


「私がここに住むって、どういうことですか? 私はすぐにでも自分の家に帰りたいんですけど」

「それは体調がよくなったあとで、ゆっくり説明するよ」


今! 今説明して!


けれど、革靴の足音に混じって、カツッカツッという細いヒールの音が聞こえてきた。