「魔王様、近い! 近すぎですよ! いきなりびっくりするじゃないですかっ」
私の背中が魔王様に触れていた。
私は相変わらず不意打ちに弱いのだ。こういうのはドキドキして困る。
「ははっ、寝癖が直ってないよ」
魔王様が優しく私の髪をつまんだ。
魔王様の息もかかった。
朝から心臓に悪いー!
これはやっぱりナイトキャップが必要!
美髪を目指すんじゃなくて、寝癖対策として!
リナさんに頼んで、早急に買ってもらうしかない!
私の頭の中ではナイトキャップの必要性が再認識されていた。
それなのに、何事も起きていないかのように、ごく自然に会話は続いていく。
「前・魔王様からは『気に入らなかったら遠慮なく言ってほしい』と言付かっています」
「だってさ。ミクルはどう?」
「気に入らないなんてこと、ありえないですっ」
「ならよかった。それでもごめんね。誕生日は毎年のことだから、簡単に済ませてしまって」