「ミクルさんに何もしやしないから、離してあげなさいな」


魔王様はお母さんのことを完全には信じられないみたいだったけれど、それでもゆっくりと腕の力を緩めてくれた。


「ちょうどいい。城に出向く手間が省けたわ。貴方とも話がしたかったのよ。むしろそっちがメインなの。客間にいらっしゃい」


あれ? ここは誰の家?


それでも魔王様は前・魔王様の指示に従った。


客間に入るなり、まだレオさんがお茶を出してくれている最中だというに、前・魔王様は本題を切り出してきた。


「早く城へ戻ったほうがいいでしょうから、単刀直入にいくわ」


私の手をしっかりと握りながら、隣に座っている魔王様が『どうぞ』と答えた。


「困ってるのよ。気楽な隠居生活を送っていたはずが、面倒な来客がひっきりなしに訪れるようになって」


けれど、その口調はあまり困っているようには聞こえない。