だけど、デート中は……
すごく落ち着いていて、大人の男の人! って雰囲気の声なのだ(そもそも魔王様は大人の男の人なんだけど)。
謁見の間にいたときも大人な感じだったけれど、それとも違う。
ひたすら穏やかで優しい。
大きな声を出したりもしない。
耳元でそっと語りかけられると、全身がビリビリ痺れて麻痺してくる。
思考まで鈍くなって、胸は苦しいくせに、魔王様が話すのをずっと聞いていたいような気分になってしまう……
「よっし、決めた!」
魔王様は私を見下ろして、にっこり微笑んだ。
これからの時間、即ち私とのデートにワクワクしているのが、その笑顔から見て取れる。
「それじゃ、転移するよ」
私の両の手を離さないようにしっかりと、けれど決して痛くない程度に握って、これから連れ出してくれる。それも、魔王様が私に見せたい、と思ってくれる場所へ。
知らないうちに、魔王様と転移するこの瞬間が、私にとって1日のうちで1番好きな時間になっていた。