「そうじゃなくて、あんたが、我慢して嫌いなものを食べる覚悟を決めろってことだよ」

「…やっぱり、食べなきゃ駄目?」

「…それしか方法、ないだろ?」

他にどうするんだよ。

それとも、調理実習をサボるか?

仮病を使って休むか…。頭が痛くなりましたとか言って、保健室に行くとか…。

まぁ、それは最終手段だな。

俺は別に、授業をサボるなんてとんでもない!とは言わないぞ。

人間なんだから、たまにはズル休みしたくなることだってあるだろ。

大人だってそうなんだから。

普段真面目に生きてるなら、たまに力を抜くくらいは許されると思うんだよ。

でも、それはあくまで最終手段。

正攻法で攻略出来るなら、それに越したことはないと思うんだよ。

…あとはまぁ、これを機に。

寿々花さんの好き嫌いが少しでもマシになったら、調理担当の俺としては助かるって言うか。

つーか、大丈夫だよ。そんなに深刻に考えなくても。

俺だってたまに、あんたにバレないように、ピーマンとかきのことか、寿々花さんの嫌いな食材使ってるから。

そのままだとバレるから、すり下ろしたり、微塵切りにしたりて、こっそり混ぜてる。

でも寿々花さん、いつも気づかずに「美味しいねー」って言いながら食べてるから。

つまり味の問題じゃなくて、要するに見た目を克服出来るかという問題なんだと思う。

あとは…匂いかな。

きのことか、結構独特の匂いするもんな。

その香りが良いんじゃないか、と言われたらその通りだと思うんだけど。

嫌いな食べ物の匂いって、嗅ぐだけで食欲失せるだろ?

俺だって、生牡蠣の匂いを嗅がされただけで、なんかお腹の具合が悪くなったような気がするもん。

そういうことだと思う。

「調理実習って、いつあるんだ?」

「…再来週の月曜日」

再来週の月曜日な。

時間の余裕はあまりないが…。

何とか、気合いで食べれるように努力しよう。

「じゃ、それまでに何とか…好き嫌いを克服するしかないな」

「克服…出来るかなぁ?」

「大丈夫だよ。俺も出来ることを協力するから」

「え。それって、女装して私の代わりに、」

「違うっつーの」

女装のことは忘れろ。今すぐ。

そうじゃなくて。

「好き嫌いを克服する為の協力だよ。それくらいならしてやる。だから、あんたも頑張れ」

「…そっか。気は進まないけど…。悠理君がそう言うなら、頑張る」

「よし、良い子だ」

そんなの嫌だ、私頑張りたくない、と。

ハナから諦めるのではなく、一応努力する気概を見せてくれるのは、寿々花さんの良いところだよな。

素直なんだよ。凄く。

あとは、この素直な寿々花さんの努力が実を結べば良いのだが。 

寿々花さんが折角やる気になってるんだから、俺も協力しないとな。