さて、それじゃあどうしたものか。

そうだな…。

「…これまではどうしてたんだ?」

と、俺は聞いてみた。

女子部の家庭科の授業では、これまでもしょっちゅう調理実習が行われていたんだろう?

去年、一年生の時も…当然調理実習はあったはず。

二年生で、それだけ本格的なフレンチフルコースを作るくらいだもんな。

一年生の時から、きっと色々作ってたんだろうなぁ。

その時だって、今回ほど露骨に野菜料理ばっかりじゃなくても。

少しくらいは、野菜を使った料理もあったはずだ。

その時はどうしてたんだろう?

「これまでって?」

「去年までだよ。去年も調理実習、あっただろ?」

「あぁ、うん…。去年もあったよ。カプレーゼとか、カチャトーラとか、ベッカフィーコとか」

今年はフレンチで、去年はイタリアンだったのか。

ベッカフィーコって何だよ?

「よく分からないけど…。それらは食べられたのか?」

「ううん。持って帰ってた。タッパーに入れて」

…そうなんだ。

「持って帰っても私は食べられないから、公園でハトにあげたり、池のコイにあげたりしてたけど…」

ハトは食わないだろ。

公園の生き物に、勝手に変なものを食べさせるんじゃない。

しかし…それは良いことを聞いた。

「じゃあ、今回もそうしたら良いじゃないか。無理して食べなくても、タッパーにでも入れて持って帰ってきたら」

ハトにやるよりマシだろ。

「そうしたかったんだけど、駄目なんだって」

「…何で?」

「なんか、学校の食品衛生規則?っていうのが今年から変わって、調理実習で作ったものは、全部その場で食べなきゃいけないことになったの」

「…あー…」

持って帰ってたら痛むかもしれないから、ってことな?

厳しいんだろうな、その辺…。万が一、調理実習で作ったもので食中毒を起こしたらいけないから…。

まぁ、基本的に学校の調理実習で作ったものは、その場で食べるのが普通だよな…。

俺も小学校の時と中学校の時の調理実習、そうだったよ。

三時間目と四時間目に作って、昼休みに給食代わりに食べてた。

しかしそのせいで、寿々花さんがこんなに追い詰められてる訳だな。

これまでは嫌いなものが出ても、タッパーに詰めて持って帰ることが出来たけど。

今回から、その場で食べなきゃいけないことになってしまった。

…俺が新校舎に行けたらなぁ…。家庭科室にお邪魔して、寿々花さんの代わりに野菜食べてやったのに。

しかし、そういう訳にはいかないから。

「それならもう…覚悟を決めるしかないだろ」

「覚悟?…悠理君が女装する覚悟?」

「ちげーよ」

いい加減あんたは、俺に女装させることを諦めろ。

やらないから。