「そんな難しく考えなくても…。鼻を摘んで、お茶で飲み干すとか…」

嫌いなもの食べるときのあるあるだよな。

あれって、鼻を摘むことに意味はあるのだろうか。

小学校の時いなかった?嫌いなものが出たとき、牛乳で流し込んでる奴。

俺もやったことがあるよ。

給食でさ、レーズンチーズわかめサラダとかいう、意味分からんメニューが出てきたことがあってさ。

牛乳で流し込もうと頑張ったけど、ただでさえ不味いサラダが牛乳の味と組み合わさって、余計不味くなった記憶がある。

あ、レーズンチーズわかめサラダ好きな人、ごめんな。

「ちょっとだけなら、それで食べられるかもしれないけど…。作るメニュー全部嫌いなものなんだもん」

しょんぼりとして、寿々花さんが言った。

あー、うん。そうか…。

どれもこれも野菜料理だもんな…。

メイン料理でさえ、きのこたっぷりパスタ…。

「きのこ…嫌いだっけ?寿々花さん…」

シイタケが嫌いなのは知ってるけど。

「嫌いじゃないよ。なめこなら食べられるから」

「…なめこしか食べられない、の間違いだろ?」

むしろ、何でなめこだけはOKなんだよ。

ぬるぬるとした食感のお陰だろうか。

今度、なめこの味噌汁でも作ろうかな…。

って、それよりも。

「ちなみに、そのきのこたっぷりパスタに使うきのこは…」

「えぇっと…。メニュー、これなの」

「…どれどれ?」

寿々花さんは、調理実習で使うらしい献立表を俺に見せてくれた。

作るメニューと、そのメニューに使う材料。

そして、それぞれのレシピが書いてあった。

うへぁ、なんて面倒臭そうなレシピだ。

で、この献立表とレシピによると。

きのこたっぷりパスタに使うきのこは、マイタケ、シイタケ、エリンギ、シメジ、マッシュルームだそうだ。

成程、本当にきのこたっぷりだな…。

…美味しそうじゃね?

でも、きのこ類はなめこしか受け付けない寿々花さんにとっては、地獄みたいなメニューだろうな。

シイタケとか…ガッツリ入ってるみたいだし。

それに、問題はパスタだけではない。

サラダにも当然、たっぷりと野菜が入ってるし。

ガトーインビジブル、っていう謎の料理にも。ニンジンとアスパラガスの他、たっぷりの野菜が入っている。

野菜のテリーヌも同様である。

この献立、一体何品目の野菜を使ってるんだ…?

これだけの野菜、用意するのも消費するのも大変だろうな。

皮剥き面倒臭そう。

「成程…。寿々花さんにとっては辛いメニューばっかりだな…」

「…うん…」

ただの好き嫌いだろ、と言われたらそれまでなんだけど。

誰だって、自分の嫌いなものが出てくるのは嫌だろ?

ましてや今回は、その嫌いなものを、自分の手で作らなきゃいけないんだから。

俺だって、生牡蠣嫌いだからさ。

いきなり、調理台に生牡蠣を何パックも並べられて、これで生牡蠣フルコースを作って食べろ、って言われたら。

物凄く嫌な気分になると思うんだよ。当たり前だけど。

そんな調理実習は嫌だ。

多分サボると思う。

食べるだけでも苦痛なのに、それを自分の手で作るなんて、もっと苦痛だろ?

臭いし、触るのも気持ち悪いし。

自分の嫌いなものだったらと想像したら、寿々花さんが落ち込む理由も分かるよ。

…だからって、女装してまで俺に入れ替わりを要求するのは、どうかと思うけどな。

それはそれ、これはこれだからな。

可哀想だとは思うけど、入れ替わりは絶対無しだ。