成程なぁ。それは辛いよな…。

多少料理に慣れてる俺だって、本格フレンチ調理実習なんて嫌だよ。

上手く作れる気がしないし。他のメンバーの足を引っ張りそう。

…いや、待て。

敢えて、それを活かすっていうのはどうだ?

「いっそ、棒立ちで良いんじゃないか?料理出来る奴に任せて、横で一緒にやってる振りをしてやり過ごせば」

我ながら、姑息なことを考える。

でも、ある意味で賢い立ち回りじゃないか。

周りはお嬢様揃いなんだからさ、お洒落なフレンチ料理にも慣れてるんだろ。

なら、慣れてる人にお任せしてさ。

寿々花さんは、横の方でちょっと野菜を切ったり、指示された通りにかき混ぜたりしてれば。

それで何とかやり過ごせないだろうか。

あぁ…でも。

この人、良い意味でも悪い意味でも目立つからなぁ…。

無月院家のお嬢様ってだけで、皆から注目を集める存在。

こっそり隠れるようにしてやり過ごす…のは、俺みたいな影の薄い奴じゃないと無理か?

…しかし。

「ふぇ?何でやり過ごす必要があるの?」

寿々花さんは俺の提案に、きょとんと首を傾げていた。

…え?

「…料理下手なのに、フレンチフルコースの調理実習なんて出来ないから、俺に代わって欲しいんじゃないのか?」

「ほぇ?ううん。そうじゃないよ」

違うの?

俺はてっきり、自分には出来ないから代わってくれと言っているのかと…。

「それに、悠理君。私だって頑張ればきっと、フランス料理くらい作れるよ」

えへん、と胸を張る寿々花さん。

何処からそんな自信が出てくるんだ?

卵焼きを爆破して、調理実習の実技で赤点を取った奴の台詞か?

「じゃ、何が問題なんだよ?」

「作るのは良いの。問題は、作った後なの」

「…作った後?」

「出来上がったら、その場で皆で食べるでしょ?それが嫌なの。今回の料理、全部野菜ばっかりなんだもん」

あっ…成程。

そういうことだったか。なんか…納得した。

そういえば、野菜料理ばっかりだもんな…。

それがテーマだからなんだろうけど、前菜もスープもメイン料理も全部、野菜が中心。

ニンジンですら、未だに星型にくり抜かないと食べられない寿々花さんにとっては、非常に辛いラインナップである。

嫌いなもの多いからな…この人…。

「せめて悠理君のご飯だったら、美味しいから食べられるかもしれないのに…」

俺の野菜料理が食べられるなら、フランス料理も余裕だろうがよ。

何を落ち込む必要があるんだ。

「あんなにたくさん野菜を食べたら、私、うさぎになっちゃうよ」

「…良いんじゃねぇの?うさぎでも…」

可愛いじゃん。うさぎ。

しかし、そういうことか。寿々花さんが落ち込んでる理由が分かった。

…そんな、玄関先で蹲るようなことじゃないだろ。