こんなこと言うと、男女差別だろって思われるかもしれないけど。

男性が女装するのと、女性が男装するのとでは、ハードルの高さが違うような気がしないか?

だってほら、女性はスカートでもズボンでも、どっちでも履けるけど。

男はズボン一択だろ?

他にも、女性はショートヘアでもロングヘアでも行けるけど。

男は短髪しか…。いや、男でもロングヘアの人はいるけど…。

男でロングヘアにするには、なかなか勇気が要るような気がする。

とにかく、何が言いたいかと言うと。

俺は女装なんかする趣味はない。

いくら寿々花さんの頼みでも。無理なものは無理。

それなのに。

「大丈夫だよ、悠理君」

「…何が大丈夫なんだよ?」

何も大丈夫じゃねーよ。

「悠理君、女の子っぽい顔だし。そんなに背も高くないし。きっとバレない」

全然嬉しくないんだけど?

「バレるかバレないかの問題じゃないんだよ」

俺の自尊心の問題だ。

公衆の面前で女装などしようものなら、俺はご先祖様に申し訳が立たない。

「そんな…。悠理君、助けてくれるって言ったのに」

「…それは…」

「悠理君にまで見捨てられちゃったら…私、どうすれば良いんだろう…」

「…」

…やめてくれない?そうやって、俺の罪悪感煽ってくるの。

無理矢理女装させる方向に持っていこうとするんじゃない。

やらないから。

「…あのなぁ。見捨てるとは言ってないだろ」

「だって、駄目だって」

「女装は駄目だよ。当たり前だろ」

仮に、仮に俺が自尊心を捨てて女装に挑んだとして。

万が一、何かの奇跡が起きて、それがバレなかったとしても。

新校舎の授業に、旧校舎の…しかも一学年下の俺じゃ、寿々花さんのクラスのレベルについていけないよ。

ましてや普段の寿々花さんは、めちゃくちゃ頭良いんだから。

助けないとは言ってないし。見捨てるとも言ってない。

女装以外に方法を見つけてくれ。何でも良いから。

「そもそも、何があったんだ?何で入れ替わる必要があるんだ」

そこを聞いてないぞ。まだ。

「それは…。私には出来ないことをするから」

「は?」

「今度、調理実習があるの。だから、悠理君が代わりに出てくれたら良いのになぁって」

…調理実習だって?

これには、俺も目が点になった。