「どうした?誰に何か言われたのか」

何を落ち込むようなことがあったんだ?

うちの寿々花さんに、誰か悪口でも言ったか?

「そんな悪い奴がいたら、俺のところに連れてこいよ。あんたに代わって言い返してやるから」

「…悠理君…」

「ほら、顔上げて。とりあえず玄関から立ってくれよ」

こんなところで落ち込むんじゃない。

びっくりするだろ。

「どうした?何かあったのか」

「何かあったって言うか…。これからあるの」

…何が?

「何かあるっけ…?…期末試験…?」

別に寿々花さんは、試験があるからって落ち込む必要はないだろ。

学年一位、いや、全校生徒で一番の成績なんだから。

「ううん」

と、寿々花さんは首を横に振った。

…試験ではないのか。やっぱり。

「じゃあ…何なんだ?俺、何かしてあげられることあるか?」

「悠理君…。私のお願い聞いてくれる?私のこと助けてくれる?」

「それは…。俺に出来ることなら、何でもやるけど…」

「本当?」

寿々花さんは、パッと顔を上げた。

うん。

玄関先で落ち込まれたら、俺も困るからな。

俺がどうにかしてあげられることなら、するよ。

「あぁ。本当」

「じゃあ、悠理君にお願いしたいことがあるの。…良い?」

「お願いしたいこと?…良いよ。何?」

すると寿々花さんは、あろうことか。

とんでもないお願い事をしてきた。

「今度、女装して私の代わりに学校に行って欲しいの」

「却下」

即答だった。

当たり前だけど、即答だった。

「酷い。お願い聞いてくれるって言ったのに」

裏切られたような顔の寿々花さん。

俺に出来ることなら、って言っただろ。出来ないことまでは、引き受けられねーよ。

自分が何言ってるのか分かってるのか?

それとも、俺の聞き間違いか?

除草?除草してくれってこと?草むしりすれば良いのか?

それなら引き受けるよ。

「もう一回言ってくれ。今、何を頼んだ?」

「女装。女の子の格好して、女の子の制服着て、私の代わりに授業に出て欲しいんだ」

「やっぱり却下」

「酷い!」

酷いのはどっちだよ。

除草でも…助走でもなく、女装だろ?

何を頼んできてんだ。引き受ける訳がないだろ。アホなのか?

何があったのか知らないけど…。

「あんたな、自分だったらどうなんだよ。俺の代わりに男装して学校行ってくれ、って俺に頼まれたら、あんたは引き受けるのか?」

「うん。悠理君の為なら、頑張る」

「お、おう…」

予想外に即答されてビビった。

それはありがとうな。

でも、俺は無理だから。悪いけど。