「び、びっくりした…。どうしたんだ?今度は何があった?」

てっきり、喜び勇んで待ってるものだと思っていた。

初めてのお使いに成功した子供が、親に褒めてもらおうとするかの如く。

寿々花さんのことだから、褒めて褒めてーとせがんでくるのかと…。

そして、今回ばかりは俺も鬱陶しがらず、ちゃんと褒めてあげようと思っていた。

大体、俺は所詮一学年の中で三位。

対する寿々花さんは、全校生徒の中で一位だぞ?

偉そうに「よく頑張ったな」とか言える立場じゃないんだよ。

それなのに。

寿々花お嬢さんは、喜んで褒めてもらおうとせがむ…どころか。

こうして、玄関に蹲って負のオーラを放っている。

これはどうしたことだ。

「寿々花さん、どうした。大丈夫か?返事をしろ」

慌てて駆け寄り、蹲る寿々花さんに声をかけると。

「…やっぱり駄目だった…」

寿々花さんは、ポツリとそう呟いた。

…は?

駄目だったって…何が?

「…何の話だ?」

「学校…試験…。頑張ったら、悠理君にお願い事を聞いてもらうって約束してたのに…」

うん、してたな。

「やっぱり駄目だった…無理だったよ。結構頑張ったんだけどな…」

…え?

「駄目だったってどういうことだ…?頑張ってたじゃないか」

「頑張ったよ。でも…悠理君との約束は果たせなかったから…」

「…??」

何に落ち込んでんの?この人。

全校生徒首位を獲得した癖に、何を落ち込むことがあるのか。

寿々花さんが何言ってんのか分からない。

あれ?やっぱり、ランキング表に載ってた名前は、うちの寿々花さんじゃねぇの?

同姓同名の別人でした、ってオチ?

いや、そんなはず…。

「あんた、学年で一番だったよな?どころか…全校生徒の中で一番だったんじゃないか?」

「…何が?」

「試験の結果だよ。掲示板にランキング表が貼り出されてただろ」

見てないのか。一番だったぞ、あんた。

「あぁ…。試験のランキングね。いつも貼ってある…。今回も貼ってあったんだね」

「貼ってあったんだねって…。見てないのか」

「うん…。見たってしょうがないもん…」

「…」

「…お願い事、聞いてもらいたくて頑張ったのに…」

しょぼーん、と落ち込む寿々花さん。

…全校生徒の中で一番の成績を取った人間が、何故こんなにも落ち込んでいるのか。

意味が分からないよ、俺には。

「何に落ち込んでるんだ?五教科、満点だったじゃないか。頑張ったじゃないか」

「頑張ったよ。でも…悠理君との約束は、五教科で満点を取ることじゃなくて…。『成績が上がったら、お願い事を聞いてあげる』だったでしょ?」

あ?

…そういや、そう言ってたっけ?

「でも…学年で一番なんだったら、成績は上がってるはずだろ?」

「ううん…上がってないよ。去年の試験のときと、点数も順位も変わってないもん」

度肝を抜かれたかと思った。

衝撃の新事実が発覚した。

寿々花お嬢さんは、今回初めて学年首位を獲得したんじゃない。

去年…つまり一年生の時から、ずっと五教科満点で学年首位だったのだ。

…。

…この人もしかして、俺が思ってるより遥かに…賢いんじゃねぇの?