「ッ」

「ひっ響?!?」



優菜のひっくり返ったような声に続いて。

知っている香りに,私は



「ひび……き……?」



そう真っ暗な視界の中で呟く。

涙で熱を持つ瞼が,それ以外の温度を感知していた。

アイマスクの様に優しく包んだ右手も,支えるように左腕を掴む左手も。

全部,響くんのものだ。



「はー。用事とか言うから,どこの見る目あるバカかと思ったら。……絶対行かせないと思ってたのに気付いたらいないし。ほんと,勘弁してよとーかちゃん」



言葉の割に,口調が優しい。

泣きそうになるくらい,好き。

唇を引き結んで,涙を堪える。



「しかもここなんて教室? 知らなすぎて最後になっちゃったよ」



何を勘違いしてここまで走ってきてくれたのだろう。

棟も違うし,使う機会なんてない。

こんなたった1つの教室を探して,今私を後ろから守ってるんだろう。