「流されてるの見て、このままだったら一両目まで行くだろうなって思って、人をかき分けて君のところにきた」


 美月の心をよんだかのように彼は説明した。
色のない淡々とした声でいう彼はどこかに大人に見えた。


「あの、名前を聞いてもいいですか」


 彼は驚くように、少しさびしそうに一度瞳を伏せたあと、美月を見た。


相川朝陽(あいかわあさひ)


 彼、朝陽はただそれだけを言った。未だつけられたイヤホンは何が流れているのだろうか。


「君は美空」
「――え……」


 美空。聞くはずがない、聞けるはずがない言葉が耳に響いた。


「涼風美空(みそら)


 そういうと朝陽は口元を歪ませた。


 さっきまでは見れなかった鮮やかな顔で朝陽は言った。


「会いたかった。美空」