「すみません……」
「いえ、」
若い男性の声だった。高くも低くもないすっと耳に馴染む、穏やかな声色。
俯いていた顔を上げて誰なのか確認した。クーラーの風に靡く黒髪、美月を見定めた焦げ茶色の瞳。イヤホンをつけた彼がじっと美月を見ていた。
心臓が大きく跳ねる。今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じた。
手首に何か温かいものを感じて、見てみると彼の手が美月の手首を包みこんでいることに気がついた。
「あ、すみません。さっき助けてもらって」
「本当にびっくりしましたよ。さっきまで俺のこと見てた人がいつの間にか人に押されてここまで来たので」
バレてたの……。
急に恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じる。それと同時に疑問が浮かんだ。
なんでこの人はここに居るのだろう。