東京ー、東京ー。


 アナウンスと同時に扉が開いた。電車の中から一気に人が消える。


 人の流れに任せて、美月も扉へと向かっているときだった。


 手摺に寄りかかった体制で、イヤホンをつけた男性に目がとまった。


 ふわりと柔らかそうに跳ねる黒髪、少し着崩した制服、何より焦げ茶色の瞳に目を奪われた。


 思わず足が止まってしまった。背中に次々と人が当たる。サラリーマンの舌打ちを無視して、ただあの彼に見惚れた。


 すぐに電車に多くの人が乗ってくる。またも、その波にのまれるように進む。


 止まらない人の波にどんどん奥へ流される。


 そろそろ、まずいんじゃ……。


 そう思ったときだった。誰かに勢いよく腕が引かれる。バランスを崩し、足を踏んでしまった。