公花は、黒尾と樋熊が老婆の(かたき)をとろうと動くのではないかと身構えたが、ふたりはそうはしなかった。本来の家の当主である剣が、世にも冷たい目をしてふたりを睨みつけていたからだ。

「おまえたち。俺にまず言うことはないのか?」

「「も、申し訳ございませんっっっ」」

 床に額を擦りつけて震えている様子を見て、公花はぷっと吹き出してしまった。妖の家系だけに、力こそすべてみたいなあっさりしたルールがあるのだろう。

「おまえらは減給六か月。一ミリでも俺の機嫌を損ねたら、生まれてきたことを後悔させてやるからそう思え」

 室内に響く泣き声が、三人分に増えてしまった。
「しくしくしく……」
「うぇぇ、勘弁してくださいよぉ……」
「うぉーん、うぉーん……!!」
 まさに蛙の大合唱……。

「あの~……さっき大変だーって駆け込んできたと思うんだけど、なにかあったんじゃ……?」

 公花が冷静につっこむと、黒尾がぱっと涙を止め、顔色を変えて言った。

「そうでした! 大変なんです、すぐ逃げないと、この建物――倒壊します」

「……は?」

 剣の乾いた声が、虚しく響いた。