戦意喪失した老婆は、もう剣の敵ではなかった。

 それよりもといわんばかりに剣が体の向きを変え、公花の肩に手を置いた。
 頭のてっぺんから足の先まで見回しながら、しつこいほど公花の無事を尋ねてくる。

「公花、怪我はないか?」
「うん、大丈夫。ありがと……うっ」

 次の瞬間、かき抱くように引き寄せられて、懐に抱きしめられて――。

 背に回された彼の手はかすかに震えていて、胸元に寄せた頬に伝わる心臓の音は、駆け足のように速かった。
 それだけ心配をかけていたのだと実感する。

 腕の中は温かくて、お日様のいい匂いがする。ちょっぴり恥ずかしかったけれど、懐かしくてほっとするような気もした。
 ぎゅっと抱きしめられたまま、彼の気が済むまで、身動きもせずに待っていると――。

「蛙婆女様~~~っ!」
「た、大変です~! 急いでここを離れ……あれ?」

 慌てた様子で神殿に駆け込んできたのは、赤眼の青年と大柄な熊男。蛇ノ目家の使用人で蛙婆女の部下でもある、黒尾と樋熊だ。

 焦げた床、ところどころ破損した壁。そして小さくなって泣いている老婆――。
 室内の惨状を見てとって、ふたりは愕然とした。蛙婆女の元へと駆け寄って、助け起こす。

「マジっすか……負けちゃったんすか? 蛙婆女様」
「ババ様ぁ……」