「おまえが、剣様が大切にしていた金魚のフンね。黒尾め、捕まえておくように言ったのに、いい加減な管理をして……」

 言い回しに悪意を感じて、公花は憤慨した。金魚のフンって……最初に絡んできたのは、剣のほうだというのに!
 とはいえ、今ではもう……大切な、失いたくない相手だという認識はしているけれど。

『……そいつを離せ。公花には手を出さない約束だ』

「約束? した覚えはありませんね」

 しれっとした返事に、空気が怒気をはらむ。

『貴様……!』

 剣が、絞り出すように唸った。
 焦りもあるのだろう。いくら強気を装っても、絶対的に不利な状況。その表情は、見たことがないほど張り詰めている。

 蛙婆女は、わざと煽るように意地悪な高笑いを響かせた。

「その結界はすべての神通力を跳ね返す。あなたはもうそこから出ることはできない。無力な者の命令を聞く必要が、どこに?」

『くっ……』

 万事休す。
 公花がせめてひと噛みでもしてやれればと思うのだが、とにかくハムスターの体では手足が短くて、ぶら下げられている体勢ではどうにもならない。

「……そうだわ。いいことを考えました。このねずみの体内から、神通力の欠片を感じます。鱗を飲んだのでしょう? それならば……私がおまえを丸呑みにして、取り込んであげる。ね、名案でしょう。私の一部として生きられるのだから、満足よね」

(全然満足じゃありませんからーーー!!!)