ホテルのルームサービスとか、高級料理店などでワゴンに乗せた料理を運ぶときに、埃よけに被せて運んでくる銀色のドームカバー。
 あれにしか見えないと思って、そう例えただけなのだが……。

 だが彼にもまだツッコミができるほどの気力が残っていることがわかり、安心できた。
 すると心を読まれたのか、『余計疲れるだろうが!』という叱責が追加される。

『うんうん、懐かしいこの感じ……』
『納得するな! ……うぐぐ』(ますます弱った声)
『ん? ……あっ!』

 慣れた刺激に浸りながら休憩を挟んでいると、頭の回転も速くなる。
 なにやら閃くものを感じて、公花は顔を上げた。

 ドームカバーが床の上に被さっているのなら、床の下から入ればいいのだ。
 要するに、地面を掘る。そして、結界の内側に出るようトンネルをつくる。時間はかかるかもしれないが、それしか方法は思いつかない。

 うろうろと周辺の様子を確かめ、床板に歯を立てたりしている公花を見て、剣は言った。

『おい待て、なにをする気だ?』

 カツカツカツ! ガーリガーリガーリ……。
 
 自慢の前歯で擦り取るように動けば、つやつやだった床の表面が鰹の削り節のように削げていく。
 いける! 木造だからこそなせる業!

『いや待て……公花』

 焦るような声が聞こえたが、構っている暇はない。
 夢中になって作業に没頭していると、ふいに首根っこを摘ままれ、四つ足が宙を舞った。