白蛇は、こちらの姿をふと懐かしそうに眺めると、思いを振り切るように一度瞬きをして、諭すように言った。

『よかった……。無事だったのなら……逃げろ……』
『ダメだよ! 剣くんを助けにきたんだから!』
『俺のことは、いいから……』
『絶対に嫌! 一緒じゃないと、ここから離れない!』

 白蛇は苦悶の表情を浮かべている。
 だが駄々をこねているばかりでは、状況を打開することはできない。
 公花は剣の力を封じている結界をなんとかしようと周囲を嗅ぎ回ったが、妙案は浮かばなかった。

 何度か透明な壁に体当たりをしてみたが、痛い思いをしただけで終わってしまう。どう考えても、無駄なあがきだった。

『公花……』

 もういいから敵に気づかれる前に逃げてくれという、剣の切実な気持ちはひしひしと伝わってきたが、これだけは聞けない。
 今逃げてしまったら、もうチャンスはない。八方塞がりではあるが、諦めるわけにはいかないのだ。

(はぁ、どうしよう……。あの透明な壁を破る方法はない?)

 体をぶつけると、結界はバチバチと薄光を放って、半球状の形がくっきりとあらわになる。
 明らかに床の魔法陣と連動しているから、あの紋様を消せれば結界も消える気がするが、それが描かれているのは結界の内側だ。
 中に入ることができない以上、発生源をつぶすことはできない。剣が動いてくれれば話は早いのだが、それができるなら、すでにやっているだろう。

『剣くん、この高級なお料理にかぶさってるカバーみたいなやつ、どうにかする方法はないの?』

『おまえな、その例えはなんだ……』

 すかさずツッコミが飛んできた。

『え?』

 きょとんと首を傾げる公花。ボケたつもりはないのだが。