樋熊は檻の噛み合わせをはずし、蓋を開けてくれた。部屋から出て、すぐ目の前の庭に逃げられるよう縁側の縁に降ろされ、公花は晴れて自由の身となった。

「もう罠とかに引っかからないようにするんだよ〜」

(こくこく)

「わぁ、返事した! 頭のいいねずみだぁ」

 太い人差し指の腹で頭を撫でられて、ハイタッチでお別れをした。

 早速その場を離れて、縁の下に身を隠す。基礎の木柱が入り組む中を進み、換気口から再び屋敷に侵入、探索を開始する。

(剣くん、どこにいるの?)

 公花は方向音痴だし、広大な日本家屋の内部構造もわかっていない。けれども体の中に息づいている蛇神の鱗の力が、向かう方向を示してくれる気がした。

 本能のまま前進する。障害があれば切り崩してでも進んでいくのだ。そうすればいつか、目的地にたどり着ける。

(……それにしても広いなぁ)

 基本、足が短いので回転率が半端ない。それでも、やがて屋敷の地下フロアにまで到達。その天井裏をちょこまかと、時折、天井板の隙間から下を覗きながら移動した。

 眼下にはたくさんの部屋と長い廊下があり、迷宮のごとく入り組んでいる。

(……!)

 途中、なにか雰囲気が変わったことを肌で感じとった。
 神殿のように神聖で、けれども禍々しい。警備員や従者の姿もなく、静謐な空気。下々の者は立ち入れない、特別な場所へと踏み込んだようだ。