「……なに?」

 想定の範囲内ではあったが、言っている意味が曖昧すぎてよくわからない。眉根を寄せて聞き返す。

 蛙婆女はクツクツと特徴のある笑い声を漏らしながら、得意げに言った。

「殺しはしません。あなたには利用価値がある。私は龍鱗を生み出すことはできませんからね……また必要となったときに、生きていてくださらないと困るのです」

「……」

 そういうことか、と即座に理解する。
 蛙婆女は龍鱗によって力を得た。体を若くよみがえらせるほどの霊力を……。けれどそれは、一時的なものに過ぎない。外部から摂取したものはいつか底を尽き、元に戻ってしまうのだ。

「欲張りな女だ」

「先見の明と捉えていただきたいですね。そういうわけで、あなたには生き続けてもらいます。霊力を生み出す私のお人形となってね」

「そんなことを俺が許すとでも?」

 屋敷にいれば、いずれ自分の力も回復する。そうすれば、魔法陣を破ることなど造作もない。

 すると、蛙婆女は彼女の呪術道具である水晶玉を取り出し、剣の前にかざした。

「ご覧ください。中にはなにが映っていますか?」

「……?」

 訝しげに眉をひそめ、警戒しながら視線を動かす。

 水晶玉は、はじめ濁ったように色を曇らせていたが、やがて雲が晴れたようにクリアになる。そこに浮かび上がったものは――。