妖気の質で、すぐに持ち主を察したが――ふと首を傾げた。見知った気配なのに、なにかが違う。

「お目覚めですか? 剣様」

 艶のある声を発したのは、腰まで届く黒髪に、なまめかしい白い肌、赤い口紅が目を引く絶世の美女だ。

「……? 蛙婆女か?」

 老いた体から見違えるように若返った彼女は、瑞々しく妖艶で、異様な威圧感を放っている。

「はい、蛙婆女でございます」

「……おまえ、龍鱗を飲んだな」

「ご明察。このときを待っていたのです。私がすべてを手に入れる日を」

 蛙婆女の野心は、もとより剣の知るところだった。力を取り込んだ彼女は、自分に成り代わり、神として君臨するつもりだろう。

 だが、それには気づかぬ振りをして、尋ねる。

「それで、当主をこのように扱って、どういうつもりだ?」

「無駄話は私も好みません。単刀直入に言いましょう。あなたをね……飼って差し上げようと思っているのですよ」

 以前の面影を残す、耳まで裂けたような笑みが、壮絶に花開いた。