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 どうしようもなく不安がふくれあがって、剣は目を開いた。

 嫌な目覚めだ。自分はどうしたのかと考えて、身動きがとれないことに気づく。
 嗅ぎ慣れた木造建築の匂いに混じって、強い香の匂いも漂ってくる。

 白紫の袴装束を身につけて魔法陣の上にいる自身の姿は、なにかの儀式の途中のようにも錯覚したが、どうも違うようだ。
 彼の手足は、鎖で拘束されていた。拘束具の先は、地面に打たれた杭に繋がっている。

 破れないかと力を込めてみたが、無駄なあがきに終わる。陣の上では、神通力が無効化されてしまうらしい。

 今の自分は、非力な人間と変わらない……。
 だが、人間の姿に戻れたこと自体は幸いだ。この屋敷は神通力が発揮しやすいよう、気の流れが集まる力場になっている。皮肉なことに、ここにいると幾分、回復が早まるのだ。

 周囲を見回し、部屋の様子を確認する。
 蛇ノ目家地下の空き部屋に間違いない。

 本家に連れ戻されたことはわかるが、この状況は一体どういうことなのか。仕置きのつもりか、それとも別の意図があるのか……。

 どちらにせよ無駄なあがきはすまいと、陣の上でたたずまいを直したところで、誰かが戸を開け、すり足で近づいてくる気配がした。