(いい人だ、風間くん……!)

 感動する公花だが、剣がこの場にいれば、フンと鼻を鳴らし、機嫌を悪くしていたことだろう。

 だが、協力者を得て現場にたどり着いたからといって、蛇ノ目家の中に入れるわけではない。

 門の前はサングラスをかけた警備員が見張っているし、複数台の監視カメラに加え、周辺の巡回も行う警戒ぶり。塀を乗り越えたりしたら、すぐに見つかってしまうだろう。

「押し入るのは難しそうだ。警察を呼ばれて終わりだろうし……」

 一度戻って対策を練ろうと言われたが、公花は首を横に振った。

 トランスおばあちゃんが言っていた、「剣を渡してはならない」という言葉を思い出したのだ。

 図書館の資料で見た一文が、急に瞼の裏に浮かび上がってくる。
『妖は、相手を食べることで霊力を増やすこともある――』

 とにかく嫌な予感がおさまらない。今諦めたら、もう二度と会えないような、そんな気がした。

(なによりも、剣くんが、私を呼んでいる気がするから……)

 公花の決意を見た風間は、わかったと呟いて、立ち上がった。どうやら最後まで付き合ってくれるつもりらしい。