風間とともに自転車で向かった先は、近くまで行ってしまえば迷うことはなかった。

 カラスが消えた地域、それはこのあたりでは知らぬ者はいない広大な私有地で――蛇ノ目家の塀が、万里の長城のごとく連なっていたからだ。

 人っ子ひとり姿の見えない、閑静な高級住宅地。
 漆喰塗りの壁に瓦を乗せた、古風な塀がどこまでも続く道の途中に、見慣れた柄の鞄が落ちていた。

「私のトートバッグ!」

 駆け寄って拾い上げるも、中にいるはずの白蛇の姿はなかった。

 がっくりと立ち尽くしていると、きらりと光る欠片が、底板の隙間に隠すように残されていることに気づく。

(剣くんの銀色の鱗だ……)

 貴重なものらしいが、彼が意図的に残してくれたのだろうか。
 公花はそっとつまみ上げると、大事に握りこんだ。

「中身だけ取られたのか?」

 風間が隣に来て尋ねる。

「うん……でも、この塀の向こうって、もしかして」

「もしかしなくても、蛇ノ目家だな。家出してたお坊ちゃんは連れ戻されて説教されてるってところか」

 風間には、剣が蛇の姿になっていることや異能力のことまでは話していないが、おおまかな事情はここに来るまでに伝えてある。

 蛇ノ目家のお家騒動。剣は悪事に利用されていて、このままでは命を奪われてしまうかもしれないこと。トートバッグには、剣の身の上に関わる大事なものが入っていたこと――こうした荒唐無稽な説明を、風間は真剣に受け止めてくれた。