できるなら由来のある各地へも足を運んでみたかったが、名前が載っているのは他県の長野、奈良、京都……思い立って行くには遠すぎる。

 せめて前世の、公花と剣がともに生きていた山がわかれば、劇的な進展があるかもと思ったのだが。

 公花の記憶にあるあずきカチカチ山──剣いわく「五穀御剣山」の名称で調べても、記録には出てこなかった。

 そもそもあそこは連なる山の麓の小さな凸凹の一角であったから、今は別の名前がついているか、もう切り開かれてなくなってしまったのかもしれない。

 くるみが教えてくれたとおり、信仰が廃れた神は力をなくし、荒魂となるか、極端な場合は消滅する、というような記載もある。

 信仰といったって――自分が山ほど祈るだけでは、足りないだろうか。

(お供え物でもしてみる……とか?)

 供えるならなにがいいのだろうと、ついでに本棚から取ってきた「爬虫類図鑑」をぺらぺらとめくってみる。

(蛇の好物……ねずみ? うぇぇ、それはなんかやだ。卵。そうだ、スーパーで売ってる卵にしよう)

 リアルな蛇の写真が載っているページは、ゾクゾクして長くは見ていられず、ささっと早送りする。
 当たり前だが、剣じゃない普通の蛇は、怖いのだ。

『死んだように見えても、冬眠しているだけかもしれません。間違って土に埋めたりしないようにしてください』

 その記載だけは、マーカーで強調して知らしめたい気持ち。図書館の本だから、さすがにしないけれど。

(そういえば、前世の私と剣くんって、最後はどうなったんだろう……)

 できるなら、ちゃんと思い出したい。
 膝に乗せたトートバッグを、そっと見つめた。