遥生の学校の学園祭から1か月が過ぎた頃、私と直生の所属するテニス部は新人戦に向けて練習がハードになっていた。

今日も練習で疲れ果て、家に帰るのもやっとの思いで歩いていたの。

「もう体力の限界。直生ぃ、もう歩けないよ」

「もう少しだから頑張って歩いて、夏芽」

「こんなに疲れるなら新人戦に出たくなーい」

「ああ、もうしょうがないな」

そう言うと直生は私の腕からカバンを取り、そのまま持ってくれた。

「直生、私のカバン重いから大丈夫だよ。返して」

「夏芽がうるさいから持ってあげるよ。だから夏芽は文句言わずに歩く!」

「はーい。直生いつもありがとう」

やっとの思いで家までたどり着くと、玄関の前に遥生が立っていた。

「よぉ夏芽。お帰り。つーか、その疲れ方、おばあちゃんじゃん」

私のよろよろした姿を見て遥生が大爆笑している。

「ひっどーい。そんな風に言わなくてもいいじゃん。こっちは毎日大変なの。ね、直生」

「そうだよ、遥生。もう少し夏芽をいたわってあげなよ」

直生が私の味方になってくれた。

街灯から逆光になっている遥生を良く見ると

えっ? 待って! 待って!

遥生がまだ制服を着てる。

「遥生!! せっ、制服――」

私は遥生を指さして絶叫した。

「ん? 制服がどうしたんだよ」

「やっと遥生の制服姿を見れたんだよ。嬉しいじゃん」

「なんだそれ」

遥生はそう言いつつもどこか照れているようで、前髪を指で触っている。

「遥生、かっこいいね。ね、一緒に写真撮ろうよ」

「それは無理。夏芽気付いてる? 今の夏芽はボロボロのおばあちゃんだからな。そんな子とは写真撮りません」

「なっ、なによ! もう一生写真なんて撮ってあげないんだから」

私と遥生のやり取りを黙って見ていた直生が私のカバンを遥生に差し出して、

「はいはい。仲が良くていいね。遥生、これ夏芽のカバン。遥生が夏芽の部屋まで持っていってあげなよ。じゃ僕は先に帰ってるから。またね、夏芽」

遥生にカバンを渡すと直生は玄関の中に入ってしまった。

「あっ、直生にカバン持ってもらったお礼言ってない」

「そんなの言わなくても直生ならちゃんとその気持ち分かってる」

遥生はそんな風に言うけど、

「でも、言葉にしないとダメな時もあるでしょ」

私は直生を追い掛けて玄関まで行こうとしたんだけど。

遥生が私の手を掴んで

「行くなよ」

って小さい声で呟いて。

「でも・・・」

「あまり夏芽と会えないんだからさ。会えた時ぐらい一緒にいたいだろ」

遥生からストレートに好きと言ってもらっているような気がして、顔が熱くなるよ。

≪ぐぅぅ~≫

「は? 夏芽、今お腹で返事しただろ。もう全然色気ねー」

きゃああ。

私のお腹・・・お腹空きすぎて鳴ったぁぁ

「もうやだぁ」

私の顔は一緒にいたいって言ってくれた事への赤面なのか、おなかが鳴ったことへの赤面なのか分からないくらい熱くて。

「もう帰るっ。じゃね、遥生」

遥生が持ってくれていた自分のバッグを奪い取り、遥生へ挨拶もそこそこに家の中に入った。

すると玄関のドアの外から遥生が

「おやすみ、夏芽。夕飯たくさん食えよ」

って、うちの家族にも聞こえるような声で言った。

「もう、遥生のばか!」