「遥生、ただいまー」

私は自分の家に帰るよりも先に遥生の部屋に向かう。

修学旅行の帰り道でも直生が私の大きくて重いスーツケースを持ってくれて、そのスーツケースを遥生の部屋まで運んでくれた。

遥生へのお土産がスーツケースの下の方に入っているから、上の方に入れた服や荷物を一度出さなきゃならなくて。

私は早く遥生にお土産を渡したくて遥生の部屋で荷ほどきをしようと思ったの。

直生は私の様子を気にしていたけど、私が明るく遥生に接しているのを見て安心したのか、遥生への挨拶もそこそこにリビングに行ってしまった。

「おおー、夏芽おかえり。って、どうしたんだよ、その顔の傷」

あ、やっぱり遥生にバレた。

分からないと思ったんだけどな。

私が泥棒と揉み合った時に作った傷だって遥生に話したら、きっと怒るもん。

そしてきっと凄く心配してくれる。

だから本当のことは言わない方がいいと思ったんだ。

「これね、きのう転んでしまったの。でももう痛くないし大丈夫だよ」

「そっか。でも顔に傷を作るなんて夏芽はお嫁さんに行けないな。はははっ」

「なっ! なによそれ。本当はもっと心配してくれると思ったのに! 遥生のばか」

「ばかはどっちだよ。心配してないとでも思ってんの? 昨日の夜から何の連絡もくれないし、その顔で帰ってくるし」