「いい香りだ。すぐにでも眠れそうだ」


その声はすでにトロンとしている。


「明日は忙しくなるから、夏波もしっかり眠っておけ」

「明日なにがあるの?」

「夏波の新しい仕事用の物件を見に行く」

「えっ!?」


驚いて飛び起きてしまいそうになったが、ガッシリと抱きしめられていて動けなかった。


「私、働いてもいいの!?」

「なにを、当然なことを」


目を閉じたままで伊吹が笑う。
ずっとこの部屋にいて、ずっと伊吹のためだけにアロマを調合する。

そう考えていたのに。


「ありがとう!」


夏波が伊吹に抱きついたとき、伊吹はすでに寝息を立てていたのだった。
夏波はその寝顔を見て柔らかく微笑む。
今日、私は極悪人の抱き枕になりました。

それも、とびきり優しい極悪人です。

END