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走って走って走って、その間にも夏波の脳裏には最悪の状況が何度も再生されていた。
ヤクザの銃撃戦で倒れる伊吹の姿。

血を撒き散らして死んでいく姿。
ダメ。
そんなの絶対にダメ!

嫌な想像は、想像すればするほどどんどん現実味を帯びていくようだった。
今伊吹のマンションに駆けつけてもそこには誰もいなくて、ガランとした部屋が広がっているだけかもしれない。

伊吹の体は真っ白なシーツに包まれて病院にあるかもしれない。
そんな妄想を振り払うように走った。

額に汗がにじみ、息が切れて肺が痛くなってきたとき、ようやくマンションが見えてきた。
連れてこられたときにはマンションの外観なんてロクに見ていなかったけれど、新と共に外へ出たときにはちゃんと確認しておいたのだ。

なにか、忘れちゃいけないような気がして、そのマンション名を脳に刻み込んだ。
それが役立ったのだ。

オートロックの玄関を開けてエレベーターを待っている間にもそわそわして落ち着かない。ギュッと両手を握りしめて祈るような格好で待つ。