床に落ちたフライ返しを拾い上げた新が眉を寄せて夏波を呼ぶ。
夏波は勢いよく立ち上がると上着を来てスマホをポケットに突っ込んだ。


「ごめん、私出かけてくる」


理由も告げずに出ていこうとする夏波の腕を新が掴んだ。


「どこに行くんだよ?」


その目を真っ直ぐ見ることができない。
伊吹に、ヤクザに会いに行くなんて言えない。

だけどあの人は自分を家から連れ出してくれた人だ。
あの人がいなければ夏波はまだあの家に、そして母親に縛り付けられていただろう。


「ごめん新。迎えに来てくれて嬉しかった。でも私、戻らなきゃ!」


そう言うと、夏波は新の手を振り払って朝の街へと飛び出したのだった。