ヤクザの借用書を見るのは当然ながら初めての経験で、それだけでもドキドキしてしまう。
その中で自分の母親の名前を見つけたときには心臓が止まってしまうかと思った。

「30万……」


母親の借用書に書かれていた金額を読み上げて脱力してしまう。
新が教えてくれたことは本当だったんだ。

母親の借金はたったの30万。
払えない金額ではない。
ましては人身売買なんて考えられない金額。

いつの間にか借用書を握りしめる手に力が入り、小刻みに震えていた。
これだけの金額なら夏波の貯金からすぐにでも出すことができる。

家に帰ることができる。


「帰ればいい」


突然後ろから聞こえてきた声に悲鳴を上げそうになった。
驚いて振り向くと、いつの間にか伊吹が寝室の入り口に立っていた。

今日はそれほど怪我をしていないようだけれど、疲れているようでドサリとベッドに座り込んだ。


「借用書を見たんだろ? 帰りたければ、帰ればいい」


伊吹の声からはなんの感情も読み取れなかった。
夏波は静かにファイルを元に引き出しに片付けた。
自分の背負っている借金の金額はよくわかった。