振り向くと、五十嵐くんが少し顔を上げて私を見ていた。


『治った?』


指で自分の頭を指しながら、五十嵐くんが小さな声で尋ねてきた。


『うん、治ったよ。ありがと。』


私も小さな声で返すと、五十嵐くんが『よかった』と言いながらにっこり笑った。


私もつられて笑ったら、五十嵐くんの頬が少し赤くなった気がした。照れたように口元を手で抑えると、顔を逸らすようにして横を向く。

私もちょっと恥ずかしくなって俯いてから、ゆっくりと前に向き直った。



――夢じゃなかったんだ。



五十嵐くんの爽やかな笑顔と、保健室でのことを思い出してしまい、また体温が上がる。


――今日みたいなこと、もう2度とないよね。 


そう思いながら、私は1日中、五十嵐くんに頭を撫でてもらったことを思い返しながら幸せな気分で過ごしたのだった。