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ねぇ、私の気持ち、君にちゃんと伝わっているかな?


君と一緒に過ごしたのは、ほんの短い間だったけど、
こんなに笑って、泣いて過ごした夏は、
これから先、無いんじゃないかって思う。


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「ふぁぁ…」


枕元にあるはずのスマホを手探りで探すと、クーラーの風に冷やされたスマホが手に当たる。


13:45


はぁ…。今日もこんなに寝ちゃった。


画面に表示される時間を見て、軽く絶望する。

だって、高校生になって初めての夏休みだというのに、キラキラした青春なんて一ミリもないんだもん。
毎日同じような時間に起きて、ネトフリ観て、食べて、寝てを繰り返している。
そろそろネトフリで見たい映画もドラマもなくなってきているような始末だ。


私は臼倉奈々(うすくらなな)。15歳。
都内の高校に通う高校1年生だ。


中学生の頃に思い描いていた高校生は、もっと大人で、彼氏とお祭りで浴衣デートしたり、友達とかわいいカフェでスイーツを食べたりするものだと思っていた。
だって、インスタには、そんな高校生たちがたくさんいるんだもん。


それなのに…。


「いったい、どうして、こんなに地味なのよぉ~⁈私の夏休み~‼」






奈々は、13:45の上に小さく表示される日付を見て、さらに絶望する。


8月10日


って、もう夏休み残り半分終わっちゃったじゃないのよ。


「はぁぁ…。私の夏休み、やり直したい」


夏休みをやり直したところで、キラキラした青春な日々が過ごせるのかは、謎だけど。
奈々は、パジャマ替わりに着ている中学のジャージのままリビングに行くと、テーブルにはピンクの付箋が貼り付けてある。


ななへ
お昼は冷蔵庫にオムライスあるから、チンして食べてね。
夏休みの宿題ちゃんとやっているの?


ママからのお小言メモだ。

私の両親は共働きで、学校は夏休みがあるけれど、両親は当たり前に、毎日会社に行っている。

なんだか罪悪感が…。
仕事に行く前の慌ただしい朝に、私の好物をこうして作ってくれているのに、娘の私は毎日昼過ぎまで寝ているなんて。


奈々はオムライスをレンジで温めている間に、洗面台で顔を洗い、髪を櫛でとかした。
いつでも髪を結べるようにゴムは右手につけておくことにしたが、なんとなく今日は髪をおろすことにしたのだ。


よし。今日からは良い子になって、図書館に行って夏休みの宿題をしよう。


ママが作ってくれたオムライスを食べ終わると、Tシャツとジーンズに着替えた。
姿見にうつる自分の姿を、チラッと見る。


「とりま、これでいっか」


図書館で勉強するだけだし、別におしゃれする必要はないよね。


奈々は、さっそくカバンに夏休みの宿題や教科書を入れ、自転車に乗って図書館に向かった。