メッセージ付きの花束、クラスのみんなとの集合写真、たくさんの手紙。
それらが入った紙袋を片手に下げ、家のドアを開けた。

「ただいま。」

その返事はいつもすぐに帰ってくる。

「おかえりなさい。蓮くん。クラスのお別れ会どうだった?」

「みんな泣いてお別れしてくれました。寂しいって言って」

「あら、そう。仲の良いお友達ができていたのね。」

「はい。」

完璧に計算された笑顔、口調、振る舞い。

完璧に作り上げる"美澄 蓮"(みすみ れん)という
人間を今日も演じる。

目の前に立つ母は私を微笑みながら見ている。

「離れ離れなのは少し寂しいけど、
明日から佳純(かすみ)学園楽しみね。」

「はい、そうですね。」

明日からは今まで通っていた高校ではなく、佳純学園という全寮制で国内でもトップクラスの偏差値を誇る高校に転校する。
その学園に通う大半の生徒は将来国を支える財閥や
政治家のご子息だ。

今日まで通っていた高校も決して偏差値が低いわけではないが、母は今の高校では満足しなかったみたいだ。

「じゃあ僕は明日の準備と荷物の整理もあるし
そろそろ部屋に戻りますね。」

絶対に完璧は崩さない。
最後まで気は抜かないように笑顔を作る。

「わかったわ。蓮くん、お母さん期待してるわよ。」

母の「期待してる」という言葉の裏に隠される
「失望させないで」というメッセージを見逃さない。

「はい。母さん。」

広いリビングには扉が閉まる音だけが響いた。