ちょっと!と怒るこの女に、さっきまでの不快感は消えて。
今思えばこの女と歩いてた時、不快感はなかった。
いつもは女と近くにいるだけでも不快で胃がムカムカするのに。
なんで……。
唯一気を許せた花染とは違う。むしろこの女は正反対だ。
……ほんとに、俺自身がよく分からない。
「ていうか!お前、じゃないです!天瀬陽乃!」
「…お前」
「ちょっと!?ひーなーの!」
「……天瀬」
「ええ!陽乃って呼んでくれないんですか!?」
「……」
「ちぇー」
どこか不満そうな顔をした女……天瀬は、じゃあ…と言葉を続けて。
「私に気を許してくれたら、その時は絶対陽乃って呼んでくださいね!」
……そんなの、あるわけないのに。
俺は女の名前すらも呼べないのに。
自分の中でいろんな感情がぶつかり合ってる中、天瀬は楽しそうな顔で俺を見て笑って。
そんな天瀬の笑顔を見た瞬間、俺の一人静かな世界がパリンと割れる音がした。