今日、話したいことがあるから放課後に時間が欲しい。
"親友"の彼からそんな連絡をもらったのが今朝のこと。
……まあ、私は親友だなんて思ってないのだけど。
同じクラスで同じ部活、趣味まで合うノリのいい友達。
だけど、私が落ち込んでたら一番に気づいて励ましてくれる、優しい一面も持っている。
みんなから隠れて、一人で泣く私を見つけ出すのは、いつもあいつだった。
明るい声で呼ばれる私の名前は、初めて聞く響きに聞こえて、沈んだ心を掬い上げてくれた。
そんな親友に淡い思慕を抱くまでに、そう時間は掛からなかった。
朝の電車でぼんやりとスマホを眺めていた矢先の好きな相手からの放課後の呼び出しに、ドキリと心臓が跳ねた。
ああ、対面じゃなくてよかった。だって私は、今の気持ちを表情に出さないなんて無理だから。
話したいことがある。
そんな親友からの連絡に、クスリと笑えるスタンプを一つ返した。
ソワソワと集中できない授業が過ぎ去り、あっという間に放課後になった。
何人もに「今日いつもとノリ違わない?」なんて聞かれては、慌てて誤魔化して。
その度にチラリとあいつの方を見て、目が合う前に視線を逸らした。
終わらないでほしいと願ったトイレ掃除は、今日に限って早く終わった。
いつもはあんなに面倒なのに、今日は隅々の汚れが気になって仕方がない。
トイレから出ていく友達が私を振り返って名前を呼ぶのに、先に行くように促して、鏡の前で前髪を確認する。
バランスよく散らした前髪に、もう一度櫛を通して。
表情は、いつも通りを取り繕って。
仕上げにニコリと微笑んでみたのに、今日の私はやっぱりいつもと違って見えた。
あまり親友を待たせるわけにもいかないので、トイレを出て、私は教室への廊下を早足で歩いた。
短く整えたスカートの裾は、一歩踏み出すたびに、震える足にまとわりつく。
逃げ出したい気持ちを堪えて、私は教室の引き戸に指をかけた。
「遅いぞ、先に帰られたか心配になるじゃん」
眩しい逆光の中、窓際の机に腰掛けたあいつが笑う。
「ごめん、ちょっと話してたら遅くなっちゃった」
嫌にバクバクと暴れる心臓を抑えながら、私も窓際の机に歩み寄った。
西側の窓から差し込む橙色の光が、教室を染め上げながら影を作る。
私たちの影も、ぼんやりと伸びていた。
「それで、話ってなに」
あいつの目をじっと見つめて、私は単刀直入に聞いた。
心臓が暴れすぎて、痛い。
今すぐに逃げ出したい。
そんな私の気持ちなんて何も知らないあいつは、いつもの無邪気な笑顔で答えた。
「俺……鈴木に告白するわ」
鈴木咲稀、私たちの頼りになるマネージャー。
親友の気持ちが咲稀に向いていることは、ずっと前から気づいていた。
私がいても、すり抜ける視線。
咲稀に話しかける時の、優しい声。
そんな私には見せない一面を、横から盗み見ていたのだから。
「そっ……か、やっとか……」
「やっと……ってお前、知ってたのか」
「あんたの気持ちなんてバレバレなんだから」
朝、連絡をもらったとき、絶望した。
放課後にならなければいいのにって、何度も何度も願った。
話したいことなんて、聞かなくてもわかってたのだから。
「とりあえず……親友のお前に、宣誓」
「……応援、してるね」
まだ泣くわけにいかない。
私が泣いたら、落ち込んだら、気づかれてしまう。
「上手くいくこと、私も祈ってる」
「ありがと。やっぱり持つべきものは親友だな」
こんなに苦しいのに、泣きたいのに、心底嬉しそうに笑う君を見たら、何も言えなくなってしまう。
だから、私は、
"親友"の彼からそんな連絡をもらったのが今朝のこと。
……まあ、私は親友だなんて思ってないのだけど。
同じクラスで同じ部活、趣味まで合うノリのいい友達。
だけど、私が落ち込んでたら一番に気づいて励ましてくれる、優しい一面も持っている。
みんなから隠れて、一人で泣く私を見つけ出すのは、いつもあいつだった。
明るい声で呼ばれる私の名前は、初めて聞く響きに聞こえて、沈んだ心を掬い上げてくれた。
そんな親友に淡い思慕を抱くまでに、そう時間は掛からなかった。
朝の電車でぼんやりとスマホを眺めていた矢先の好きな相手からの放課後の呼び出しに、ドキリと心臓が跳ねた。
ああ、対面じゃなくてよかった。だって私は、今の気持ちを表情に出さないなんて無理だから。
話したいことがある。
そんな親友からの連絡に、クスリと笑えるスタンプを一つ返した。
ソワソワと集中できない授業が過ぎ去り、あっという間に放課後になった。
何人もに「今日いつもとノリ違わない?」なんて聞かれては、慌てて誤魔化して。
その度にチラリとあいつの方を見て、目が合う前に視線を逸らした。
終わらないでほしいと願ったトイレ掃除は、今日に限って早く終わった。
いつもはあんなに面倒なのに、今日は隅々の汚れが気になって仕方がない。
トイレから出ていく友達が私を振り返って名前を呼ぶのに、先に行くように促して、鏡の前で前髪を確認する。
バランスよく散らした前髪に、もう一度櫛を通して。
表情は、いつも通りを取り繕って。
仕上げにニコリと微笑んでみたのに、今日の私はやっぱりいつもと違って見えた。
あまり親友を待たせるわけにもいかないので、トイレを出て、私は教室への廊下を早足で歩いた。
短く整えたスカートの裾は、一歩踏み出すたびに、震える足にまとわりつく。
逃げ出したい気持ちを堪えて、私は教室の引き戸に指をかけた。
「遅いぞ、先に帰られたか心配になるじゃん」
眩しい逆光の中、窓際の机に腰掛けたあいつが笑う。
「ごめん、ちょっと話してたら遅くなっちゃった」
嫌にバクバクと暴れる心臓を抑えながら、私も窓際の机に歩み寄った。
西側の窓から差し込む橙色の光が、教室を染め上げながら影を作る。
私たちの影も、ぼんやりと伸びていた。
「それで、話ってなに」
あいつの目をじっと見つめて、私は単刀直入に聞いた。
心臓が暴れすぎて、痛い。
今すぐに逃げ出したい。
そんな私の気持ちなんて何も知らないあいつは、いつもの無邪気な笑顔で答えた。
「俺……鈴木に告白するわ」
鈴木咲稀、私たちの頼りになるマネージャー。
親友の気持ちが咲稀に向いていることは、ずっと前から気づいていた。
私がいても、すり抜ける視線。
咲稀に話しかける時の、優しい声。
そんな私には見せない一面を、横から盗み見ていたのだから。
「そっ……か、やっとか……」
「やっと……ってお前、知ってたのか」
「あんたの気持ちなんてバレバレなんだから」
朝、連絡をもらったとき、絶望した。
放課後にならなければいいのにって、何度も何度も願った。
話したいことなんて、聞かなくてもわかってたのだから。
「とりあえず……親友のお前に、宣誓」
「……応援、してるね」
まだ泣くわけにいかない。
私が泣いたら、落ち込んだら、気づかれてしまう。
「上手くいくこと、私も祈ってる」
「ありがと。やっぱり持つべきものは親友だな」
こんなに苦しいのに、泣きたいのに、心底嬉しそうに笑う君を見たら、何も言えなくなってしまう。
だから、私は、