すると、ユノはわたしの体をそっと放し、真剣に見つめてきて……。
「嫌な思いをさせてごめん!」
すがるような表情で謝ってくる。
「……ユノ」
何も言えずにいると、彼の視線はわたしから鮎川がいるほうへ移った。
「オレ、果歩ちゃんを誘いたい……ダンスパーティーに」
力強さを感じる声。
切ない横顔が目に焼きつく。
「果歩ちゃん」
再度、ユノの目はわたしに向いた。
まだ何も言われていないのに、その目が、その声が、わたしへの気持ちを伝えてくる。
「っ……」
胸が痛い。
ぐぐぐって苦しくなって、でも、すごくドキドキして……。
火照りだす頬。
戸惑いながらも、わたしは次の言葉を心待ちにしていた。
けれど、それよりも先に、視界の隅に人影が映る。
「I don't understand why I'm not enough for him」
エイミーだった。彼女は呆れた態度で、英語の言葉をつぶやく。
その声に反応し、ユノも振り返った。
エイミーはそれからも英語で、怒っているような口ぶりを続けてくる。
またわからない会話が始まるんだろう。そんな気がしていたら、
「……エイミー」
ユノはまじめな表情で口を開いた。
「エイミーの、気持ちに……応えることは、できない」
言葉を選んでいるかのように、ゆっくりと話し始める。
エイミーが理解しやすいように喋ってるのかな?
「前にも言ったけど、ボクが、好きなのは……彼女」
スッと背中に手を置かれた。
「素敵な女の子。果歩ちゃんは」
静かに聞くエイミーの表情が重く沈んでく。
彼女はしばらくうつむき、そして、凛とした態度でユノを見る。
「アホラシ」
ぽつりと関西弁でつぶやいてから、今度はわたしに目を向けてくる。
「……スマンナ」
ブスッとした顔で謝られた。
その表情からはまだ嫉妬心も感じられる。
だけど、つらそうだった。