開店してから2時間が経ち、教室の中はわいわいと賑わっていた。
「結構、入ってるな」
様子を見に戻ってきた鮎川が話しかけてくる。
「うん。お客さんの着替えに時間がかかってるみたいだけど、それなりにスムーズだよ」
「へぇ。ユノは大丈夫そうか?」
「あー、お姫さま抱っこのクジはまだふたりしか……」
状況を報告しながら、待機しているユノに目を向ける。
けれど、
「っ!」
見た瞬間、わたしはきゅっと下唇を噛んだ。
「I've missed this chubby belly of yours」
「That tickles!」
エイミーにお腹をつままれ、困った顔のユノ。
周りにはわからない英語でペラペラと話している。
「山咲?」
「……あ。ふたりしかまだ引いてないの」
鮎川の声で我に返り、慌てて続きを言った。
でも、視界の隅に映るふたりの様子にまた驚いてしまう。
「……っ」
椅子から立ったユノが、しぶしぶといった態度で彼女を抱きかかえ、あのセリフを口にしているの。
「ユノのやつ、また無理して……」
鮎川の呆れた声を聞きながら、わたしは込み上げてくる苛立ちを必死にこらえていた。
それからもユノは、ずっとエイミーの相手ばかり。
わたしはしずちゃんたちと一緒に校内を回ったり、
「あはは! 似合う似合う!」
「お前、バカにしてるだろ」
教室にいるときは、王子姿になった鮎川を指で差して面白がっていた。
そのときのわたし、いつもより声が大きかったと思う。
向こうにいるユノを意識しながら、大げさに腹を抱え、楽しそうに見えるよう振る舞っていたの。