ユノはそのまま女の子を連れてきてしまい、うちのクラスは大賑わいとなった。

「ウェルカム! マイネームイズ、タムラ! オレタムラ!」

「アイアムア、ペン!」

「……ペンになってどうすんだ。それを言うならジスイズだろ」

英語なんて話せないくせに、男子たちは知っている単語を並べて、会話を試みている。

「ホントだ……時間とか決まってたんだね! 道わかんないと思って一緒に来ちゃった」

「ま、いいんじゃね? あんま変わんねぇし。そのうち他の客も来るだろ」

ユノは友だちから来客時間を教えられ、慌てている様子。

「タムラネ。ヨロシュータノンマスワ」

「え! 日本語わかるの!?」
「チョットダケヤケド!」

高めのかわいい声……てか、なんで関西弁?

離れた場所から様子を眺め、心の中でツッコんでいると、横にいたしずちゃんが手を伸ばしてくる。

「……何?」

人差し指でクイッと眉間を上げられた。

「ん? しかめっ面になってるから」

しずちゃんはニッコニコ笑っていて、この状況を楽しんでいるみたい。

「気のせいだよ」

「そう? 結構イライラしてるように見えたけど?」

面白がるように言われ、ムッとしたわたしはそっぽを向く。

けれど、その向いた先には人の顔があった。

青い瞳と、マシュマロのような白い肌。

サングラスを外し、間近に顔を寄せていた彼女は、驚くわたしにクスッと笑みをこぼす。

「アンタ、カホ?」

誰かに聞いてきたのだろう。

返事がまだでも、そうと決め付けている態度だった。

顔をじろじろ見た後は、上から下、下から上、と見定めるような目で見られ、独り言のようにぽつりと英語でつぶやかれた。

「こら、エイミー!」

わたしたちに気づいたユノが、慌ててそばに来る。

「シューサク!」

瞬時に変わったエイミーの表情。

さっきまで見下すような目つきをしていた彼女は、明るい笑顔で彼に向く。

っていうか、“シューサク”って。

「しずちゃん……さっきの英語、わかる?」

「さぁ。よく聞こえなかった」

目の前でペラペラペラペラと繰り広げられる英語の会話。

エイミーは余裕のある話しぶりで、ユノはちょっと困ってるみたい。

でも、本気で嫌そうにはしていない。

仕方ないなぁと許すような態度で、いたずらな笑顔を受け入れている。


「……ちょっとトイレ」

イライラするから、この場から離れようとした。

でも、立ち上がったそのとき、エイミーが「カホ」と名前を呼んでくる。

止まって目をあわすと、彼女は言った。

「ウチ、アンタキライヤワ」

発音の悪い、カタコトの関西弁。

澄んだ瞳の奥から感じる敵視。

すぐにわかった。

この子はユノが好きなんだな、って。