約1ヶ月にわたり文化祭の準備をしてきたわたしたち。
毎日、何かしらの授業がその作業で潰されていたから、堂々と勉強をサボれることが嬉しかった。
ハンガーにかけてある数着の衣装や、撮影用にと作っておいた簡易背景。廊下に出す予定の立て看板に、来客の方たちに配る用のビラ。
準備万端な教室をぐるりと見回していたら、日直のユノが「戸締りするよ」と声をかけてくる。
「え! 明日、アメリカの友だちが来るの!?」
「うん。さっき空港に着いたっていう連絡があった……夏休みに入ったから遊びにきたよ、って」
「な、夏休み!? まだ6月に入ったばかりだぜ!?」
「アメリカは少し早いんだ。文化祭ってものもないから興味があるんだって……」
男子たちと話しながら教室を出ていくユノ。
後ろを歩くわたしは、その後、ユノがとった行動をおかしく感じた。
「夏休みが長いのはうらやましいな……オレもアメリカに住みてぇ」
「日本もそうならねーかなー」
男子たちはそばにいても何も気にならないらしい……。
「電車、間に合うかな……今日は外食の日だからさ、早く帰らなくちゃ親がうるさいんだよね。ちょっと早歩きになるけどいい?」
隣にいるしずちゃんはスマホで時間を確認していて、さっきのユノを見てはいないみたい。
「……うん」
変だったよね、絶対。
さっき、ユノは右手で持っていたカバンを地面に置き、その手でズボンの左ポケットから教室の鍵を出していた。
そして、鍵を閉めた後はまた右手でカバンを拾っている。
なんで左手を使わないんだろう。
普通ならカバンを持ったまま左手で出すはずだ。
ポケットに手を入れるのも、わざわざ体をひねって逆の手を使うなんて。
カバンだって左手に持ちかえればいいはずなのに。
……片手しか使わないことが妙に気になった。
「しずちゃん……ごめん、今日は先に帰ってて」
「え? 何か忘れ物?」
「ううん……ちょっと用事を思い出して」
嫌な予感がする。体をひねったときの表情が、あのお姫さま抱っこの時と同じだったから。
もう一度、確かめたくて……ひとりになったわたしは昇降口の隅に隠れる。
しばらくして、鍵を置きに2階の職員室まで行っていたユノたちが階段を下りてきた。
「……まただ」
他の男子はみんな、カバンを持ったまま靴を履き替えている。
でもユノは一度カバンを置いてから靴を取り出したの。……右手で。
もしかして。そんな考えが頭の中をよぎった。
それからもわたしは靴箱の陰に身を隠し、帰ってく彼らを眺める。すると、決定的な場面が目に映った。