「お取り込み中のところ、悪いんだけど」

そばにいたしずちゃんがぽつりと言う。

「教室に入れない子たちがいるから、ちょっとズレたほうがいいと思うよ?」

言われて後ろを振り向くと、廊下には大勢のクラスメイトがニヤニヤした表情でわたしたちを見ていた。
◇ ◇ ◇



それから数時間後の休憩で、わたしとしずちゃんは窓側から教室で騒ぐ男子たちを眺める。

「大怪我じゃなくてホントよかったね」

「うん」

視界の中のユノは楽しそうに笑っている。

昨夜はユノのつらそうな顔を思い出して、なかなか寝付けなかった。

「……っはぁ。安心したら眠くなってきた」

「ホント単純だね、果歩は」

大きな口であくびをするわたしは、呆れた笑みのしずちゃんを横目で見つめる。

“何があったの!”

昨日……しずちゃんは、突然、家をたずねたことに驚きつつも、しがみつくわたしをちゃんと受け止めてくれた。

“怪我、たいしたことないって!”

鮎川から連絡があったときも、真っ先に笑顔で知らせてくれて。

安心して涙目になるわたしに、何度も何度も「よかったね!」って言ってくれたの。

「……しずちゃん、あのさ」

昨日の放課後を思い出す。

“果歩ちゃんは勇気がある女の子だって……だから、松本さんともちゃんと話し合えるはず”

伝えなきゃ本心を聞くこともできない。ユノはそう言っていた。

「ん? 何?」

「……」

そうだよね、ユノ……。

しずちゃんの気持ちは、しずちゃんに聞かなきゃわからないよね。