「ごめん、お茶でいい? ジュースはないみたい」

「うん」

家に上がるのは中学以来だ。

玄関先で事情を話すと、しずちゃんは「まだ誰も帰ってきてないから」と言ってリビングに入れてくれた。

「ユノくんの番号は知らないの?」

「……交換してない」

「そっかぁ」

キッチンに立った彼女はふうとため息をひとつ。

わたしの前にお茶を置いてから、そのまま2階へ上がってしまった。

「サイン帳?」

「うん。鮎川なら知ってるんじゃない? スマホの番号」

「あ……そっか。その手があったんだ」

彼女はスマホを片手に、中学のクラスメイトたちに書いてもらったサイン帳を開く。

そして、鮎川の家に電話をかけ始めた。

「突然のお電話で失礼いたします。わたし、春樹くんと同じ高校に通う松本と申しま……あ、鮎川?」

本人が出たんだろう。

高めの声で丁寧に話していた彼女は、間を置いたあと地声に戻った。

「……そう。それで今、うちに来てるんだけどさ」

聞いたばかりの話を鮎川に伝えている。

「うん、悪いけど……うん。ごめんね、こんなこと頼んで」

しずちゃんの言う通り、鮎川はユノの連絡先を知っていたようで。

「怪我の様子を聞いてほしい」としずちゃんは頼んでくれた。

電話を切った彼女は、落ち着いた表情で微笑んでくる。

「ユノくんに電話してくれるって。少し待っていよう」

「……うん」

ふと考えた。逆の立場だったらわたしはこんなふうに動けていたのかな、って。

しずちゃんはいつも落ち着いていて、お姉さんみたいな存在で……。

「ありがと……しずちゃん」

不安で、どうしようどうしようと焦ったとき、頭の中に浮かんだのはしずちゃんの姿だった。

これまでも、わたしはいつもこんなふうにして頼ってきたんだ……。