それは一瞬の出来事だった。

高さ2メートルくらいの板が迫ってくることにビックリし、目を見開くと、他の何かが横から覆いかぶさってきて、わたしの視界は真っ暗に。

自分の体を動かすこともできず、そのまま強い力で後ろに流された。

背中が地面にぶつかると同時に、“ガタン”という大きな音が耳に響く。

「っ……」

何これ……重い。

背中の痛さよりも、のしかかるモノの重さのほうがつらい。

顔面がつぶされて、視界は真っ暗。

「……んんっ」

両手でぐっと押し返す。

けれど、手のひらはぷよぷよした感触に飲み込まれ、まったく動かせない。

「っ!!」

力を抜くと、再び、柔らかい何かに押しつぶされ、苦しさから足をバタバタさせた。

息をする隙間もなくて困っていると、

「大丈夫か!?」

誰かの声と共に、重さから開放される。

身が軽くなり、ゆっくり体を起こしたんだけど、
「えっ……」

のしかかっていたモノがなんだったのかを知って、硬直した。

「ユノ……」

もしかして、助けてくれたの……?

倒れる直前に、視界の端から何かが飛び出してきたのを思い出す。

その場にいた男子生徒たちに持ち上げられた彼は、体をかがめ、足を手で覆っている。

たぶん、位置からして……顔に当たっていたのはユノの胸だったのかな?

ユノはつらそうな表情のまま、身を乗り出してくる。

「大丈夫? 果歩ちゃん……」

第一声はわたしを心配する言葉。

「わたしは平気……だけど」

ユノのほうが痛そうだよ。

後ろ向きで倒れたから、背中はまだジンジンしてる。

でも、ユノの足……ズボンが少しやぶけていて、血も滲んできてる。

どう見ても、被害はユノのほうが大きい。

わたしはひざ立ちの体勢で近づき、足の怪我を見せてもらおうとした。

でもそのとき、周りを囲んでいた生徒のひとりが、割り込むように声をあげる。

「来た! センセー、こっちです!」

手を振っているほうを見ると、遠くで生徒と一緒に走ってくる先生がいた。