それからまた1週間が経ち、わたしたちの学校は本格的な準備期間に入った。

どのクラスも毎日ひとつの授業が潰れ、文化祭の作業時間となる。放課後も残る生徒がちらほら出てきた。

「“待てって”」

女の子を壁際に追い込んだ男子が、ドンッと片手をつく。

そのまま顔を近づけ、囁くようにひと言。

「…………」

言え! 言うんだ!

「…………」

静かに見守るわたしはゴクリとつばを飲み、今か今かと待ち望む。

けれど、その男子は……。

「っ、恥ずかしくて言えねぇよ!」

顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。

見守っていた数人の男子はゲラゲラと笑い出し、女子たちはがくんと肩を落とす。

「何やってんの! 恥ずかしがらずに言ってよ!」

「だってよ~」

「うるさい! “早くオレのものになれよ”って囁くだけでいいの!」

この時間、わたしは監督のような振る舞いで、少女マンガのシーンを担当する男子に指示を出していた。

「果歩ちゃんすごいね……」

「うん……人が変わったみたい」

「熱の入れようがすさまじいな」

張り切るわたしに驚くクラスメイトもいるけれど、せっかくやるなら手は抜きたくない!

「はい! もう一度!」

「はぁ……こんなの罰ゲームだぜ」

「グチグチ言ってないでさっさと立ち位置に戻る! 後がつかえてるんだから!」

「はいはい……」

メガホン代わりに丸めていた台本で、男子のお尻をバシバシ叩く。

そんなわたしをクラスのみんなは面白がっている。

好きなことだから楽しくて、わたしは終始、笑顔だった。

……窓際にいるしずちゃんの様子が気になるけれど。