「……!」


突然、わたしは大きな影におおわれた。

同時に視界の隅から丸太のような腕も飛び込んできて、その手はチャラい男子のベルトをがっしり掴み、いとも簡単に体を浮かし始めた。


「わっ……ちょっ、なんだよお前!!」


急に持ち上げられ、慌てるチャラ男。

目の前の制服を着たその背中は、タコ糸で縛ったハムのようにピチピチで……。

誰、と心の中でつぶやいたとき、太ったその人は。


「オレの彼女に手を出さないでくれる?」


妙なことを言いながら、チャラ男の体を右から左、左から右へと振り子のようにぶらぶらさせた。


「……え? オレの彼女って……わたしのこと?」


変な人がまたひとり増えた気がして、思わず眉間にシワが寄る。

その人はわたしに背を向けたまま、腕の動きを激しくしていった。


「ちょっ……こええっ! 何すんだよ! おろせって!」

「まだ口説くつもりなら……飛んでもらおうかな」

「はぁ!? お前、何言って……」

「何メートル飛びたい?」


ぶんぶん、ぶんぶん、とおもちゃのように振り回されるチャラ男。

近くにいた人たちも、なんだなんだと騒ぎ始めている。

このままじゃおおごとになってしまう。そう感じて、急いで止めに入ろうとしたんだけど、


「うわああああ! もうその子には何もしないからあああ!」


チャラ男が今にも泣き出しそうな声でそう叫び、太った彼はピタッと腕の動きを止めた。

そして、そうっと地面に足がつくよう体を丁寧に下ろしてから、こっちを向く。


「もう大丈夫だよ。腕は痛くない?」

「あ、いえ。ありが……」


チャラ男が逃げ出してく様を目で追うわたしは、心配してくれる彼へと視線を移す。

けれど、