「そのシーン、オレが担当したらダメ?」
突然、背後から声がしたの。
「ユノ……」
いつから聞いていたんだろう。
彼は腕を曲げ、女子たちに筋肉があることを教えている。
「でも、ユノだけじゃ……ねぇ?」
「うん、最低ふたりは必要だよ。ユノだって見物するでしょ? 非番のときはどうするの」
賛成する子も増えたみたいだけど、彼だけじゃ問題は解決しなかった。
やっぱりダメか、と肩を落としたとき、
「しゃあねぇな」
ユノの後ろから、ひとりの男子がひょっこり顔を出した。
「やってやるよ、その役」
「……鮎川!」
面倒くさそうにしながらも、鮎川は反対していた女子を説得し始めた。
その様子を静かに眺めていると、他の子たちの小声も耳に届く。
「鮎川に抱っこされるなら喜びそうだよね、お客さんは」
「うん。ユノはユノでまた面白くなりそうだし」
ふたりのおかげで全ての案が通りそう。
ホッとしていたら、隣でしずちゃんが囁いてくる。「愛だね、愛」と。
それに対しては何も返さない。
正直に言うと、わたしも同じように感じていたから。
これが愛なのかどうかはわからないけれど、ユノはきっと、わたしのことを考えてくれたんだろう。わたしの案じゃなかったらここまではしない気がする。