その日の帰り道。

「もう……ユノのせいで今日から大変だよ」

“来週までに使うシーンをまとめておいて”とクラス委員に頼まれているわたし。

壁ドンやアゴくい、ヤキモチのセリフ、男ふたり女ひとりの三角関係、と女子たちの要望は様々で。

それらをメモった紙を眺めながら、ため息をつく。

「大変だとは思うけど……あのとき、ユノくんの愛を感じたなぁ」

「……愛?」

「うん。この案ってさ、絶対にあんたのことを考えてだよね」

しずちゃんはふふっと笑みをこぼす。
「わたしのこと?」

「じゃなきゃ、あのタイミングで推薦なんてしないでしょ。彼、あんたが少女マンガを好きなことも知ってそうだったし」

言われて思い出したのは、手紙でやり取りをしていた頃の自分。

「そういえば、わたし……何度か少女マンガの感想を手紙に書いたことある……」

「優しいじゃん、ユノくん。あんたが楽しめるような文化祭にしたいんじゃない?」

「……考えすぎだよ」

と言ったものの、思い出すのはあのときの表情。

“おすすめのマンガとかあったら教えてほしい”

もしかしたら、本当にそうなのかもしれない。

「いいなぁ~。わたしもそんなふうに思ってくれる人……現れないかなぁ」

隣に並んだ彼女はうらやましがるような言葉を口にする。

「……」

“沢部くんのことはもう吹っ切れたの?”

そう言いかけて、やめる。

今も付き合っている相手の話なら、無理やりにでも聞き出そうとするけど。

別れた相手の話だと、聞けば辛い気持ちにさせてしまうかもしれない。

聞きたいのに聞けない。言ってほしいのに言ってくれない。

わたしはしずちゃんとの間にもどかしさを感じ、小さくため息をついた。