沢部くんが紙袋を差し出すとき、ふと思い出した。生徒会長だった頃のしずちゃんたちを。
このふたりって仲がよかったっけ? そう心の中でつぶやいたとき、
「別れてください」
沢部くんは冷たく言い放つ。
「……え」
別れてください、って……。
言葉の意味を理解できず、まばたきが増えた。
紙袋に視線を移すしずちゃんは、暗い表情のまま、黙ってそれを受け取る。
「……しずちゃん?」
どういうこと?
別れてくださいって……しずちゃん、沢部くんと付き合ってたの?
わたし……何も聞いてない。
声をかけても彼女はわたしを見ようとしない。
「前にも言ったけど……キミの彼氏はボクじゃなくてもいいように思えるんだ」
混乱するわたしの耳に入るのは、沢部くんの声。
「ボク自身、キミにこだわる理由もない」
……え?
「キミはもっと頭がいい子だと思っていた。とても残念だよ」
何、それ……。
「このまま続けても時間の無駄だと思うから、別れてください」
話の内容からしてふたりがそういう関係だったということはわかった。
でも、沢部くんの機械的な話し方からは、優しさがひとつも感じられなくて。
『お待たせしました。2番線、ホームに……』
しんとしたこの場の空気を壊す、ホームのアナウンス。
「さようなら」
到着する電車に乗るつもりなんだろう。
沢部くんはしずちゃんにそう告げて、背を向けた。
しずちゃんは何も返さない。けど、すごくつらそうな顔で……。